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木村崇人ワークショップ 『現代美術 ・ インスタレーション』

現代美術・インスタレーション

2007年 6月30日 ・ 7月1日

山梨県立美術館 (山梨/甲府)

持参した一週間分のゴミ

持参した一週間分のゴミを広げて観察する。
皆一様に、他人のゴミに興味津々。

木村崇人ワークショップ『現代美術・インスタレーション』は、山梨県立美術館が年間を通して定期的に行っている、一般の方々を対象とした美術講座の一つとして行われた。

参加者は、日ごろこの山梨県立美術館において水彩画や油画を習っていらっしゃる生徒さんを中心に、信州大学より以前講義を受けて興味を持ってくれた学生を含む14名。

ほとんどの方は、現代美術についての知識は全く無い状態からのスタートだった。

現代美術において、コンセプトは命であるといっても過言ではない。
まずは、このコンセプトについてのレクチャーが行われた。

今回のワークショップで、受講者が持ち物として持参したのは

『一週間で自分が出した生活のゴミ』

生活で出た全てのゴミを持参してもらいたかったが、衛生上の問題があるため、残念ながら生ゴミは省いてもらった。

ゴミについて話し合う

ゴミについて思ったこと、連想できることを話し合う。
参加者が思い思いに発言する中に見え隠れするキーワードを木村が抽出する。

ワークショップ最初の作業は、持参したゴミを広げて、人のゴミも自分のゴミも観察すること。

『一週間で自分が出したゴミ』は、広げた時点で、すでに個性的。
ゴミ袋いっぱいのゴミを持ってくる人、小さな袋に少ししかない人など、ゴミの量や質は人様々。

それまでの生活の中で、人のゴミをこれほど間近で、しかも手にとって見ることは多分無かっただろう。
通常ならプライバシー侵害にもなりかねないこの作業に、初めは躊躇する人もいたが、時間が経つにつれて、受講者がそれぞれのゴミを見せ合う、おかしな光景が広がった。

自由に観察し、ゴミについて話が弾んだところで、レクチャーに入る。挙手方式で、目の前のゴミから連想できることを、自由に議論してもらった。その中から重要なキーワードを木村が抽出する。

生活、企業の戦略、豊かさ、カラフル、思い出、環境問題、過去の記録、記憶、成長、価値観、性格・・・・など、50以上のキーワードが、ゴミから連想され、作り出された。

 

影を作る実験する

影の特性を知るために、実際に持ってきたゴミを使って、影を作る実験する。

参加者が、ゴミについて柔軟に考えられるようになって来たころを見計らって、今回のワークショップの作業内容を、ここで初めて説明する。

『ゴミに光を当てることでできる影をを使って、影によるインスタレーションを行う』

参加者の顔は????といった様子。かなり、不安な面持ちである。

イメージが湧くように、実際に影を使って作品を発表している作家の紹介を、写真を見ながら説明。

写真を見ながら、作品に秘められたコンセプトを、いかに影という素材から読み取ることができるか。
また、その見せ方はどうかなど、コンセプトの表現の仕方と、インスタレーションという手法について具体的なレクチャーが行われた。

 

影を見ながら、形を調節

影を見ながら、形を調節する難しい作業。繰り返し影を見ながら微調整をする。

実際の作業内容がわかったところで、次は、実際に影を作ってみる作業に入る。

素材によって影の見え方は違う。また、映す素材が、ライトから近いのか遠いのか、また壁までの距離も影に大きく影響する。

様々な角度で、体を使って影を作り、その影を観察することで、それまで思ってきた影とは違う、影の概念を得ることができたようだ。

木村崇人の製作過程には、必ず『実験、観察、発見』が行われる。

今回のワークショップでも、様々な素材に光を当てて影を作ってみることで、光と影の特性を『実験、観察、発見』し、影の特性を知り、より具体的に作品の完成をイメージする。

 

使用する素材である影の特性を体で感じてもらったところで、先ほどの連想ゲームで書き出したキーワードの断片から、それぞれのコンセプトを考える。

同時に、考えたコンセプトは、どのような形(映し出される実際の形)で表現すると伝わるか?また、コンセプトを表現する上で、その影を作る素材(実際に使用するゴミ)は、何を使用するのが適しているのか?など、実際に作りこむ前の重要な作業に入った。

作品を作り上げる時間の中で、一番苦しい時間である。

初日はここで終了。

翌日の制作に必要なものが、ゴミ以外でも必要になるようであれば、その道具を揃え、素材(形)がまとまらなかった人は、翌日までにまとめてくるように宿題が出された。

 

リアルな表現を試みた

表現に必要だと判断して、生ゴミを二日目に持参してリアルな表現を試みた。

二日目。

休憩時間は特に設けられず、講評会の時間ギリギリまで制作が自由に行われた。

制作中、木村はそれぞれのコンセプトを確認し、受講者がイメージしている作品の形を、より良く見せるためのアドバイスを個人別に行い、

影を使用している意味があるか?

ゴミを使用している意味があるか?

映し出されている影と、作っているオブジェの関係はどう見えるか?

作品全体の構図は良いか?

など、作りこんでいく中で、見失いがちなコンセプトや見る人の視点から見た全体の見え方を繰り返し再認識する作業が行われた。

 

映し出される映像のギャップ

手前に並ぶゴミと映し出される映像のギャップが作品を面白くさせる。

作業時間約5時間。

影を見ながら、手元の形を客観的に制作するという、初めての作業に戸惑いながらの制作。手探りの中で作業が開始された。

初めは映る影を眺めて途方にくれていた人もいたが、作業を進める中で『実験、観察、発見』の繰り返しをしながら、確実に作品は作品らしく成熟していった。

ほぼ思い通りの形が出せた人、技術的に難しく予定とは形が変わった人、制作中により良い表現を発見して進化させた人・・・

色々な人がいたが、結果的にすばらしい個性的な作品が14点、誰一人として脱落することなく完成した。

展示用に使用されているゴミと、本当のゴミ(?)が整理されると、それまで制作されていた会場は、一変。影とゴミが織り成す、一種異様な展覧会場になった。

 

講評会では、一人一人、作品のタイトルと、コンセプトを作品と一緒に発表。

前日に発表されたコンセプトが、どのような形で表現されているか。木村は作品一つ一つを丁寧に観察し、作品からコンセプトを読み取る作業が行われた。

 

時間ギリギリまで、全員が制作に取り組んだ。

時間ギリギリまで、全員が制作に取り組んだ。

今回のワークショップで、全く現代美術に親しみの無い受講者は、作品を作り上げる中で、現代美術に欠かすことのできない、コンセプトの重要性や、作り上げた物そのものではなく、展示される空間全体を見ることを学んだのではないだろうか?

そして、共に制作した人が、どのようにコンセプトを考え、そのコンセプトをどう表現したかを知った上で、講評の場で木村が一人一人の作品を見ながら発したコメントを聞き、作品から作家のコンセプトを読み取る、視点や考え方を同時に習得できたのではないだろうか?

この二つの作業が行われたことによって、現代美術の楽しみ方、見方が身をもって体験することができたと思われる。

日本ではまだ、見方がわからない、難しいと敬遠される現代美術。

その可能性や、楽しみ方を十分に体験してもらえたワークショップになったのではないだろうか。

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